トールは赤髭の雷神にしてアース神族随一の力自慢であり、国境に迫る巨人族からアースガルズとミズガルズを守り抜く不屈の守護者である。彼が振るう鎚ミョルニルは、ドワーフの兄弟ブロックとエイトリによって鍛えられたもので、決して的を外さず、投げればトールの手元へと舞い戻る。彼はただでさえ絶大な怪力をさらに倍加させる帯メギンギョルズを腰に締め、柄の短い鎚を握るための鉄の籠手を嵌めている。彼は二頭の山羊タングリスニとタングニョストに引かせた戦車で天を駆け、その車輪の音は雷鳴として人々の耳に届く。
トールにまつわる冒険譚は北欧神話の中でもっとも数多く語られている。花嫁に扮して巨人の婚礼に赴き、盗まれた鎚を取り戻した話や、巨人ヒュミルとともに釣りに出て、牛の頭を餌にミズガルズの大蛇ヨルムンガンドを釣り上げ、糸を切られるまで海面近くまで引き寄せた話などである。両者の因縁に決着がつくのはラグナロクにおいてであり、そこで二柱はついに相討ちとなる。
drepr af móði Miðgarðs véurr, munu halir allir heimstöð ryðja; gengr fet níu Fjörgynjar burr neppr frá naðri níðs ókvíðnum
「大地の守り手は怒りて打ち、/ 人はみな家を捨てて逃れねばならぬ。/ フィヨルギュンの子は九歩を歩み、/ 大蛇に討たれ、恐れを知らず沈みゆく。」 — 『巫女の予言』、ベロウズ訳
農民も船乗りも等しく守護を求めてトールに祈りを捧げ、護符として身につけられたその鎚は、北欧の信仰においてもっとも広く見られる象徴であった。