ゼウス以外のどの神も
『イリアス』第一四歌はヒュプノスにその唯一の長い場面を与えており、それは一つの訪問から始まる。ヘラはゼウスを眠らせたいと望んでいる。彼が見ていない間にギリシア勢を助けられるようにするためであり、彼女は誰に頼めばよいかを知っている。彼女は海を渡り、トアスの町レムノスへ赴き、そこで彼を見つける。ホメロスはその一行で彼をタナトスの兄弟として紹介し、ヘラは彼の手を取り、あらゆる神々とあらゆる人間の主として彼を讃える。頼みごとは明快である――彼女が愛のうちにゼウスの傍らに横たわったならば、すぐにその輝く両目を閉じてほしいというのだ。報酬は、息子のヘパイストスが作る不朽の黄金の玉座であり、その下には、ヒュプノスが酒を飲む間に足を休められるよう、足台まで添えられる。
Ἥρη πρέσβα θεὰ θύγατερ μεγάλοιο Κρόνοιο, ἄλλον μέν κεν ἔγωγε θεῶν αἰειγενετάων ῥεῖα κατευνήσαιμι, καὶ ἂν ποταμοῖο ῥέεθρα Ὠκεανοῦ, ὅς περ γένεσις πάντεσσι τέτυκται· Ζηνὸς δ’ οὐκ ἂν ἔγωγε Κρονίονος ἆσσον ἱκοίμην, οὐδὲ κατευνήσαιμ’, ὅτε μὴ αὐτός γε κελεύοι. ἤδη γάρ με καὶ ἄλλο τεὴ ἐπίνυσσεν ἐφετμή, ἤματι τῷ ὅτε κεῖνος ὑπέρθυμος Διὸς υἱὸς ἔπλεεν Ἰλιόθεν Τρώων πόλιν ἐξαλαπάξας. ἤτοι ἐγὼ μὲν ἔλεξα Διὸς νόον αἰγιόχοιο νήδυμος ἀμφιχυθείς· σὺ δέ οἱ κακὰ μήσαο θυμῷ, ὄρσασ’ ἀργαλέων ἀνέμων ἐπὶ πόντον ἀήτας, καί μιν ἔπειτα Κόων δ’ εὖ ναιομένην ἀπένεικας, νόσφι φίλων πάντων. ὁ δ’ ἐπεγρόμενος χαλέπαινε, ῥιπτάζων κατὰ δῶμα θεούς, ἐμὲ δ’ ἔξοχα πάντων ζήτει· καί κέ μ’ ἄϊστον ἀπ’ αἰθέρος ἔμβαλε πόντῳ, εἰ μὴ Νὺξ δμήτειρα θεῶν ἐσάωσε καὶ ἀνδρῶν
「ヘラよ、大いなるクロノスの娘、尊き女神よ、とこしえに在す神々のうち、他のどの神であれば、わたしは容易くこれを眠らせもしよう――たとえそれが、すべての起源たるオケアノスの川の流れであっても。だがクロノスの子ゼウスにだけは、近づくことも、まどろませることもすまい、彼自らが命じぬかぎりは。かつて別の折に、あなたの命がわたしに一つの教訓を授けたのだから。気位高きゼウスの栄えある子が、トロイア人の都を滅ぼしてそこから船出したあの日のことだ。わたしは確かに、アイギスを持つゼウスの心を欺き、その身に甘やかに注がれた。だがあなたは彼の心のうちに悪しきことを企み、荒々しい風の吹き荒れを海の面に呼び起こし、そのままゼウスを、親しき者すべてから遠く、よく人の住むコスへと運び去った。目覚めたゼウスは怒り狂い、神々を宮殿じゅうに投げ散らし、とりわけわたしを探し求め、もしも夜が――神々をも人間をもその力に従わせる夜が――わたしを救わなかったならば、わたしは天より深き海へ投げ落とされ、二度と姿を見せることはなかっただろう。」 — ホメロス『イリアス』14.243–259、A・T・マレー訳
これは自慢に裏打ちされた拒絶である。ヒュプノスは他のどの神も苦もなく従わせられると言い張り、その大きさを示すために、思いつく限り最も難しい例を挙げる――すべての起源であるオケアノスの流れである。次に彼は唯一の例外を挙げ、それを解く唯一の条件を挙げる。ゼウス自らが求めることだ。続くのは原則ではなく、記憶である。以前にも一度、ヘラはこれと同じ命令を下したことがある、と彼は言う。ヘラクレスがトロイア人の都を滅ぼしたのちにそこから船出したあの日、ヒュプノスはゼウスの心のまわりに自らを注ぎ、ゼウスが眠っている間に、ヘラは海に嵐を起こし、彼の息子を、知る者すべてから遠いコスへと追いやった。目覚めたゼウスは怒り狂い、神々を宮殿じゅうに投げ散らし、とりわけヒュプノスを狩り立てた。彼は空からヒュプノスを海へ投げ込み、二度と見えぬようにしてしまうところだった。
これこそ彼の中にあるいたずら心であり、それは特有の種類のものだ。ヒュプノスは戦わず、欺かず、盗まない。彼はこの詩の中で最も強い神に、他の誰かが必要とするちょうどその時間だけ、気づかぬようにさせる。しかもその手並みはあまりに鮮やかで、ゼウスは目覚めて初めて何が起きたかを知るほかない。ギリシア語は、その場面にぴったり合う二語で彼を描写する――νήδυμος ἀμφιχυθείς、甘く、そして周りに注がれて、という言葉であり、マレーはこれを「その身に甘やかに注がれた」と訳した。その甘さこそが手口なのだ。だからこそ、ゼウスが目覚めたとき、誰よりもまずヒュプノスを探し求めたのである。
彼を救ったのは夜であった。彼の言葉はその名で、そしてホメロスが夜に与える力――神々をも人間をもその意のままに従わせる力――で締めくくられる。続く二行、すなわちヒュプノスが夜のもとへ逃げ込み、ゼウスが疾き夜の機嫌を損ねることを恐れて怒りを抑える場面は、この事典のニュクスの項に引用されており、そこでは彼の危うさの証ではなく、彼女の力の証として扱われている。『イリアス』のこの箇所は、なぜ夜が彼を庇うのかを語らない。ヘシオドスはそれを語っており、その答えはこの項の末尾にある。
若きカリテスの一柱
ヒュプノスは、すでに負けを覚悟しているかのような一言で拒絶を締めくくる――今また、あなたはわたしに「なしえぬ、この別の務め」を果たせと求めているのだ、と彼はヘラに告げる。ヘラは彼の恐れに言い返しはしない。彼女が言い返すのは彼の記憶にである。彼の名を呼びかけながら、ゼウスが本当に、我が子ヘラクレスのために怒り狂ったのと同じように、トロイア人の肩を持つと思うのか、と彼女は問う。その比較こそが彼女の主張のすべてである――ヘラクレスはゼウスの子だが、トロイア人はそうではない。ならば怒りも同じにはなるまい。恐れる理由を取り除いたうえで、彼女は今度は報酬を変える。
ἀλλ’ ἴθ’, ἐγὼ δέ κέ τοι Χαρίτων μίαν ὁπλοτεράων δώσω ὀπυιέμεναι καὶ σὴν κεκλῆσθαι ἄκοιτιν. [Πασιθέην, ἧς αἰὲν ἱμείρεαι ἤματα πάντα.]» Ὣς φάτο, χήρατο δ’ Ὕπνος, ἀμειβόμενος δὲ προσηύδα· «ἄγρει νῦν μοι ὄμοσσον ἀάατον Στυγὸς ὕδωρ, χειρὶ δὲ τῇ ἑτέρῃ μὲν ἕλε χθόνα πουλυβότειραν, τῇ δ’ ἑτέρῃ ἅλα μαρμαρέην, ἵνα νῶϊν ἅπαντες μάρτυροι ὦσ’ οἳ ἔνερθε θεοὶ Κρόνον ἀμφὶς ἐόντες, ἦ μὲν ἐμοὶ δώσειν Χαρίτων μίαν ὁπλοτεράων, Πασιθέην, ἧς τ’ αὐτὸς ἐέλδομαι ἤματα πάντα.» Ὣς ἔφατ’, οὐδ’ ἀπίθησε θεὰ λευκώλενος Ἥρη, ὄμνυε δ’ ὡς ἐκέλευε, θεοὺς δ’ ὀνόμηνεν ἅπαντας τοὺς ὑποταρταρίους οἳ Τιτῆνες καλέονται.
「『さあ、来るがよい。わたしは若きカリテスの一柱を、汝の妻となるべく娶らせよう、パシテアを――汝が日々絶えず焦がれるあの女神を。』そう彼女は言い、ヒュプノスは喜びに満ち、答えて言った。『さあ、犯すべからざるステュクスの水にかけてわたしに誓うがよい。片手で豊かな大地をつかみ、もう片方の手できらめく海をつかんで、われら二人の間の証人となるように――クロノスとともに地の底にいる神々すべてが。まことに汝はわたしに、若きカリテスの一柱、パシテアを与えるであろうと。彼女にこそ、わたし自身が日々絶えず焦がれているのだから。』そう彼は言い、白き腕の女神ヘラは、聞き従うことを拒まず、彼の命じたとおりに誓いを立て、タルタロスの下にいるすべての神々、ティタンと呼ばれる者たちの名を呼び上げた。」 — ホメロス『イリアス』14.267–279、A・T・マレー訳
黄金の玉座は彼を動かさなかった。妻は動かす。そして地の文は、彼が口を開く前にそう告げている――ヒュプノスは喜びに満ちた、と。だがその喜びは、彼を信じやすくはしない。彼は以前、ヘラの頼みを聞いたことで危うく代償を払うところだった。そこで今度は、彼女がどう誓うべきかを彼自身が正確に指示する――ステュクスの水にかけ、片手を大地に、もう片方の手を海に置いて、クロノスのもとにいる地下の神々を証人として呼び出すのだ。彼はさらに、彼女が立てるべき誓約の文言そのものを一語一語言わせ、そこに名を書き入れさせる。ヘラは彼の命じたとおりに誓い、タルタロスの下にいるすべての神々、ティタンと呼ばれる者たちの名を呼び上げる。
この場面がこの項の配偶者の関係を与えており、それは正確に読まれるべきである。パシテアは若きカリテスの一柱である。彼女はヘラによってヒュプノスに約束され、ステュクスにかけた誓いのもとに置かれ、ヒュプノスは彼女に日々絶えず焦がれてきたと語る。『イリアス』はその約束と、それに立てられた誓いとを記録している。だが婚礼そのものは語っていない。
神々がカルキスと呼ぶ鳥
誓いが立てられると、二柱はともに霧をまとってレムノスとインブロスを後にし、足早に旅を進める。二柱は泉多きイデ山にたどり着き、レクトンで海を離れて乾いた地を進み、森の梢は二柱の足の下で揺れる。ヘラはそのままゼウスを探しに行く。ヒュプノスはそこで足を止める。
ἔνθ’ Ὕπνος μὲν ἔμεινε πάρος Διὸς ὄσσε ἰδέσθαι, εἰς ἐλάτην ἀναβὰς περιμήκετον, ἣ τότ’ ἐν Ἴδῃ μακροτάτη πεφυυῖα δι’ ἠέρος αἰθέρ’ ἵκανεν· ἔνθ’ ἧστ’ ὄζοισιν πεπυκασμένος εἰλατίνοισιν, ὄρνιθι λιγυρῇ ἐναλίγκιος, ἥν τ’ ἐν ὄρεσσι χαλκίδα κικλήσκουσι θεοί, ἄνδρες δὲ κύμινδιν.
「そこでヒュプノスは、ゼウスの目に見られるより先に足を止め、当時イデ山に生い茂っていた中でも最も高い、並外れて高いモミの木に登った。それは霧を抜けて天へと届いていた。彼はそこに座り、モミの枝に厚く身を隠し、神々がカルキスと呼び、人間がキュミンディスと呼ぶ、声澄んだ山の鳥の姿をとった。」 — ホメロス『イリアス』14.286–291、A・T・マレー訳
これらの一節の中で、これはヒュプノスが読者に見える姿を持つ唯一の瞬間であり、しかもそれは借りものの姿である。この行がまず彼について語るのは、ゼウスに見られる前に彼が足を止めるということだ。彼は山で最も高い木、霧を抜けて上空へと届くモミの木に登り、枝に厚く身を隠して、鳥の姿でそこに待つ。ホメロスはその鳥に二つの名を与える――神々が使う名と、人間が使う名と。まるでその名前さえも、二度言わねば定まらぬかのように。このモミの木と鳥がこの項の象徴であるのは、これらの本文がヒュプノスについて与える唯一の姿だからである。
そして計画は成功する。ゼウスはガルガロスの頂で、眠りと愛とに打ち負かされ、妻を腕に抱いたまま眠りに落ちる。ヒュプノスは見届けようとはしない。彼はギリシア勢の船へと駆け下り、ポセイドンへの伝言を携える――今ゼウスが眠っている間に、彼らを助けよ。ヒュプノスが彼に柔らかなまどろみを注ぎ、ヘラが彼を欺いて共に横たわらせたのだから、と。それから彼は人間の諸族の間へと去っていく。ステュクスの誓いなしにはゼウスに近づこうとしなかった神は、ゼウスを眠らせ、ポセイドンに知らせを伝えることで、この一場を締めくくるのである。
双子の兄弟
それから二巻のち、ヒュプノスはゼウスに逆らうのではなく、ゼウスのために働いており、もはや一言も口をきかない。ゼウスの子サルペドン――父自身の言葉によれば、彼にとって人間の中で最も愛しい者――は、パトロクロスの手にかかって死ぬ運命にある。ゼウスは、彼を生きたまま戦場から連れ去るべきかと、声に出して思い悩む。ヘラは彼に、その死をそのまま起こらせ、魂と命が身体を離れたのちに、タナトスとヒュプノスを送って、彼の兄弟や親族が葬れるよう、その亡骸をリュキアの故郷へと運ばせるよう告げる。ゼウスは我が子を死なせる。それから命令を下す。
καὶ τότ’ Ἀπόλλωνα προσέφη νεφεληγερέτα Ζεύς· «εἰ δ’ ἄγε νῦν, φίλε Φοῖβε, κελαινεφὲς αἷμα κάθηρον ἐλθὼν ἐκ βελέων Σαρπηδόνα, καί μιν ἔπειτα πολλὸν ἀποπρὸ φέρων λοῦσον ποταμοῖο ῥοῇσι χρῖσόν τ’ ἀμβροσίῃ, περὶ δ’ ἄμβροτα εἵματα ἕσσον· πέμπε δέ μιν πομποῖσιν ἅμα κραιπνοῖσι φέρεσθαι, Ὕπνῳ καὶ θανάτῳ διδυμάοσιν, οἵ ῥά μιν ὦκα θήσουσ’ ἐν Λυκίης εὐρείης πίονι δήμῳ, ἔνθά ἑ ταρχύσουσι κασίγνητοί τε ἔται τε τύμβῳ τε στήλῃ τε· τὸ γὰρ γέρας ἐστὶ θανόντων.»
「そのときゼウスは雲を集める神として、アポロンに語りかけた。『さあ、愛しいポイボスよ、行ってサルペドンから、矢の届く範囲より運び出したのちに、暗き血を洗い清めよ。それから彼を遠く運び去り、川の流れで沐浴させ、アンブロシアを塗り、不死の衣をまとわせよ。そして彼を速やかなる運び手、双子の兄弟であるヒュプノスとタナトスに委ねよ。彼らは彼を、広きリュキアの豊かな地に速やかに置くであろう。そこで彼の兄弟や親族が、塚と石碑をもって彼を葬るであろう。それが死者への礼というものだ。』」 — ホメロス『イリアス』16.666–675、A・T・マレー訳
続く八行はこの命令を実行に移し、ホメロスはほぼ一語一語繰り返す。アポロンはイデの丘から戦場へと下り、サルペドンを槍の届く範囲の外へ運び出し、川で沐浴させ、アンブロシアを塗り、不死の衣をまとわせ、同じ速やかなる運び手、双子の兄弟であるヒュプノスとタナトスに彼を委ねる。「彼らは彼を、広きリュキアの豊かな地に速やかに置いた」。ギリシア語では両方の箇所で διδυμάοσιν、双子、という語が使われている。第一四歌ではすでにヒュプノスをタナトスの兄弟と呼んでいたが、ここで『イリアス』は二柱を双子とする。そしてこの一節が、この項の兄弟関係の典拠である。
双子が運ぶのは、洗われ、油を塗られ、装われた亡骸であり、二柱の仕事は、ゼウス自らが定めた葬儀の最終段階である――故郷への旅、そして兄弟や親族が築く塚と石碑。それが死者への礼だからだ。ここでのヒュプノスはいたずら者でも取引をする者でもない。彼は、死者を葬る者たちのもとへ速やかに運ぶ一対の運び手のうちの一柱であり、詩はこの一対に一つの定型句を与えるのみで、それぞれに別の言葉を与えることはない。
人々に優しく
ホメロスのヒュプノスは物語の中の一登場人物であるが、ヘシオドスのヒュプノスは一つの家系の中の位置である。『神統記』のニュクスの子らの目録の中で、夜は憎むべきモロスと黒きケルと死とを生み、そしてヒュプノスと夢の一族とを生む(二一一〜二一二)。これがこの項の母の関係の典拠であり、『イリアス』が開いたままにしていた問いに答えるものである。これと並べて読めば、『イリアス』第一四歌でヒュプノスが夜のもとへ逃げ込む場面は、息子が母のもとへ駆け込む姿であることになる――もっともホメロスはその行の中でそうとは一言も言っていないのだが。
詩のずっと後になって、ヘシオドスは再び彼のもとへ戻ってくる。昼と夜について、一方は地上の者たちのためにあまねく見渡す光を保ち、もう一方、夜は、もやの雲に包まれて、タナトスの兄弟であるヒュプノスを腕に抱いている、と彼は言う。それから詩は、母から息子たちへと目を転じる。
ἔνθα δὲ Νυκτὸς παῖδες ἐρεμνῆς οἰκί᾽ ἔχουσιν, Ὕπνος καὶ Θάνατος, δεινοὶ θεοί· οὐδέ ποτ᾽ αὐτοὺς Ἠέλιος φαέθων ἐπιδέρκεται ἀκτίνεσσιν οὐρανὸν εἰς ἀνιὼν οὐδ᾽ οὐρανόθεν καταβαίνων. τῶν δ᾽ ἕτερος γαῖάν τε καὶ εὐρέα νῶτα θαλάσσης ἥσυχος ἀνστρέφεται καὶ μείλιχος ἀνθρώποισι, τοῦ δὲ σιδηρέη μὲν κραδίη, χάλκεον δέ οἱ ἦτορ νηλεὲς ἐν στήθεσσιν· ἔχει δ᾽ ὃν πρῶτα λάβῃσιν ἀνθρώπων· ἐχθρὸς δὲ καὶ ἀθανάτοισι θεοῖσιν.
「そこには、暗き夜の子らが住まいを構えている、ヒュプノスとタナトス、恐るべき二柱の神である。輝く太陽は、天へと昇るときも、天より降るときも、その光でこの二柱を決して見ることはない。そしてその一方は、大地と海の広き背をおだやかに巡り、人間に優しい。だがもう一方は、その心臓が鉄でできており、胸のうちの魂は青銅のごとく無慈悲である。人間のうち一度つかんだ者は誰であれ捉えて放さず、不死なる神々にさえ疎まれている。」 — ヘシオドス『神統記』七五八〜七六六、エヴリン゠ホワイト 英訳
ヘシオドスはわずか数行のうちに、この二人の兄弟を対比させる。二柱とも恐るべき神であり、二柱とも太陽の光が届かぬ場所に住んでいる。だがその一方は、大地と海をおだやかに巡り、人間に優しい。もう一方は心臓が鉄でできており、つかんだ者を放さず、神々にさえ疎まれている。ヒュプノスは前者である。彼の側を語るギリシア語は ἥσυχος と μείλιχος ἀνθρώποισι――穏やかで、人間に優しい、という言葉であり、後者の句はこの項の添え名の一つである。ホメロスのヒュプノスは取引し、隠れ、逃げた。ヘシオドスのヒュプノスは、誰もが出会いたいと思うような兄弟である。
その家のちょうど正面には、ヘシオドスはさらに語る、ハデスとペルセポネの、こだまする広間が立っている。ヒュプノスとタナトスの暗き家は冥界の入り口に位置しているが、ヒュプノス自身はそこに留め置かれてはいない。彼は、陸と海を渡って出かけてゆく対の一方である。これが、この項に二つの領域を与えている――夜、彼が夜の子であり、その腕に抱かれているから。そして策略、ホメロスが彼に与える唯一の長い場面の中で、彼がすることはゼウスに気づかせなくすることだからである。
のちの美術が彼に与える属性――翼、ケシの花、下向きに掲げた松明――は、これらのどの一節にも現れない。ホメロスは彼を、声として、モミの木の中の鳥として、そして二柱の運び手のうちの一柱として描き、ヘシオドスは彼を、母の腕に抱かれた子として、そして大地を優しくめぐる存在として描く。それが、この項の拠って立つ証拠のすべてである。